2024/11/22 14:50
お店のテラスには、おさるのジョージがいます。
どなたが持ってきてくれたのか分からないのですが、開店当初から約5ヶ月間、テラスの住人として、おさるのジョージは座っています。
多分状態は良い方で、多分結構綺麗で、多分それなりの値段がします。尤も、綺麗な状態のおさるのジョージを見たことがないので、多分、という逃げ道を用意せざるを得ないのですが。
おさるのジョージを見ると、必ず思い出すおじさんがいます。
おじさんというより、お爺さんと言った方が幾分正しいかもしれません。
フランク・ウェルカー。
おさるのジョージの声を務める、声優さんです。調べてみたところ、御歳78歳。ベテランです。
私や同世代の多くが耳にしたことのある、あのジョージの声は、フランク・ウェルカー氏の声です。鳴き声とも人間の声ともつかない、独特なあの声。一言も人間らしく話しているところを聞いたことがありませんが、ジョージの性格や感情表現は、よく伝わってきます。それだけ声優のパワーとは凄まじく、プロフェッショナルだなと感じさせられます。おさるのジョージに限らず、声優さんとは皆素晴らしい技術を持っているのだと思うのですが、人間の言葉を話さない、という制約の中で演技を行うということがどれだけ難しいか。やらずとも理解できてしまいます。文字にしてみると突然陳腐になってしまいますが、すごい、の一言です。
素晴らしく特別な能力は、引き継がれるべきです。
フランク・ウェルカー氏は、78歳。アメリカ人男性の平均寿命は、73歳だそうです。考えたくありませんが、おさるのジョージの声優も、世代交代が近づいています。
世代交代するには、同等かそれ以上の能力を持つ声優を発掘、あるいは育成する必要があります。おさるのジョージの、あの独特な声の震え方だけでなく、言葉を使わず感情や意思を表現する、言葉にならない技術も、次世代の声優に引き継がなければなりません。全く同じ声帯を持ち、全く同じパフォーマンスを発揮できる方が見つかれば苦労しませんが、大体においてそんなことはありません。第一、簡単に見つかるような才なのであれば、それは特別でもなくなってしまいます。
素晴らしく特別な能力は、再現性がないからこそ、特別なのであり、誰にでも再現できてしまうものだとすれば、それは特別ではなくなってしまいます。フランク・ウェルカー演じるおさるのジョージは、フランク・ウェルカーにしか務められないんです。
おさるのジョージ的、ジレンマ。
素晴らしく特別なものは、おさるのジョージに限らず、誰もが再現を求めてしまいます。素晴らしいから、何度も経験したくなる。当然のことです。ただ一方で、再現されればされるほど、それは特別なものではなくなり、一般化していくものだと思います。
三ツ星レストランのシェフが作る料理は、最高に美味しいものでしょう。ただ、三ツ星レストランのシェフが監修した、市販のパスタソースは、実際にシェフが作るものには届かないはずです。世界一のバリスタが監修した缶コーヒーも、世界一のバリスタが淹れたコーヒーには敵わないです。
再現性のあるものに、特別さは感じにくいんです。少なくとも、私はそう思っています。
じゃあ、おさるのジョージの声優は世代交代ができないのか。答えは、ノーです。別のベクトルで特別さを見出せる声優を起用し、おさるのジョージを生まれ変わらせることで、世代交代は可能だと思います。
ドラえもんの世代交代。私の中では、大成功です。
昔の方が好きだった、今の方が好きだったなど、意見は割れるかと思いますが、良い意味で先代の声優を無視し、伝統は守っている感じがします。皆各々が自分らしさを持っていながら、先代へのリスペクトも感じられる。全くの別物として存在しながら、キャラクターという共通項だけはきちんと守っています。素晴らしい世代交代です。
珈琲屋の店主は何が言いたくてこの記事を書き始めたのでしょう。
特別なことほどコピーできないし、コピーできてしまったら特別ではない。ただ、大切なものを守りながら、別の輝きを放つことはできる、みたいな感じでしょうか。一言では収まりませんね。
代わりはいないけれど、代役はいる。そんな感じ。
私はイベントに出展する際や、どうしてもお店を空けなければならない時、お店を他のメンバーに任せることがあります。
当然、私と同じ味のコーヒーは出てきません。しかし同時に、私がお店にいるときに味わえないコーヒーを味わうことができます。クリアで棘がないという共通項のみを残し、個性的なコーヒーが出てきます。品質のクオリティをクリアするために、数えきれないほどドリップの練習をしたメンバーもいます。もちろん私の味にファンがついているのは嬉しいことですが、個人的には、一緒に働く他のメンバーのドリップも飲んでみて!って気持ちです。美味しいので。いつでも飲めるわけでもないですし、結構レアですからね。
おさるのジョージ的ジレンマには、共通項へのリスペクトと、最大限の個性で対処できそうです。
今月、25,26,30日の3日間は店主が不在です。代わりにお店に立ってくれるメンバーがいます。
皆それぞれに美味しいコーヒーを淹れてくれます。私のいない日に、是非遊びにきてください。
テラスには、おさるのジョージがいるはずです。