2025/04/03 18:04
夜桜を見てきました。
それはそれは素晴らしい、日本の代名詞とも呼べる壮観な眺めでした。
半蔵門駅から徒歩5分。千鳥ヶ淵緑道沿いに立ち並んだ、およそ260本の桜の木々。先週開花宣言のあった都内の桜はちょうど満開を迎え、半蔵濠沿いに700m続くこの緑道は、夜桜を見ようという人々で溢れかえっていました。
月曜の夜。多くのサラリーマンにとって、決してテンションの上がるタイミングではないはずですが、そこに集う人々の表情は柔らかく、穏やかな雑踏の中で、時間の感覚を失いそうになってしまいました。
千鳥ヶ淵街道は、日本武道館を囲むようにして作られた半蔵濠の西側を南北に伸びており、向こう岸には北の丸公園を望むことができます。半蔵濠に沿うようにして、千鳥ヶ淵街道側も北の丸公園側も桜のライトアップがされ、どこをどう切り取っても、まるで絵葉書のような美しさ。真っ暗な空へと懸命に手を伸ばす桜の枝は、美しく舞う踊り子のようにゆらゆらと揺れ動いていました。
昨年の今頃も、私は別の場所でお花見をしていました。
同じく都内の、隅田川沿い。こちらも桜の名所として知られるスポットですが、昨年は今年と比べて開花時期が遅く、まだ6分咲きほどだったと記憶しています。昼前に集合して、じりじりと日に焼かれながら桜を眺め、ハイボールを片手に勝手気ままな近況報告をしていました。最近の仕事状況がどうだとか、そういえばこの間誰々を見かけただとか、ほとんど内容のない、それでいて心地よい報告会でした。
当時の私は、一般企業に勤めるサラリーマンでした。
大学時代の友人ら数名と集まってお花見をし、近くにあった有名なカフェへ入ってはなんとなく抽象的な味の感想を伝え合い、緩やかに話題の車線変更をしながら、これまた心地よい会話を続けました。もちろん当時からコーヒーは大好きでしたし、自宅でもコーヒーの研究をしていましたが、まさかその数ヶ月後に自分がお店を持つなんて、想像もしていませんでした。いつか珈琲屋を開きたいと考える気持ちは当然持っていましたし、実際お花見会場でも何度かそのような夢の話もしたのですが、この類の話はいつか結婚したら、いつか子供ができたら、いつかマイホームを手に入れたら、といった具合の空想群の一角にとどまっており、現実味のない埃を被った未来のアルバムのようなものでした。
当時在籍していた職場を離れ、わりに気に入っていた一人暮らしの部屋を解約し、実家のある松伏町へ戻り、実家から5分と離れていない場所でお店を開く。いずれも私一人の力で成し得たものではなく、ほとんどが周りの大人と呼ばれる人たちの支えによるものではありますが、あっという間に開店まで漕ぎ着けてしまったのは、幸いなことだったのでしょう。
オープンが決まったのは昨年の5月半ばのことでした。
珈琲屋を開こうと本格的に動き始めて、実に2週間後のことでした。よさそうな物件とよさそうな条件があると聞き、ほとんど即決でオープンを決めました。細かな話は以前どこかで書いた気がするので、割愛。何が言いたいかって、もうすぐオープンから1年が経ちそうだということです。
オープン当初。6月30日。
まだそれほどお客様の数は多くありませんでしたが、アイスビバレッジが多く出ていました。
アイスコーヒー、アイスティー、アイスレモネード、レモネードスカッシュ。どれも清涼感たっぷりな、夏のビバレッジです。やがて秋も深まってくると、濃厚なホットコーヒーを求める方の数が急増しました。冬にもなればアイスコーヒーを求める方はほとんどいなくなり、月替わりのコーヒーも、深煎りのものになったりしました。やがて深煎りのホットコーヒーは中煎りへと変わり、今月のコーヒー、ブルンジは浅煎りでのご用意となりました。浅煎りでありながら、ホットでもアイスでもどちらでも楽しめる、そんな仕上がりです。
こうして見ると、コーヒーだけでもそれぞれの季節を楽しむことができ、日々少しずつではありますが変化を感じながら生きてきたのだなと実感します。月替わりでコーヒーのラインナップを変えるのは割と大変だったりもするわけですが、それを苦痛だと思ったことは一度もありません(多分)。来月はこんな風にコーヒーを楽しみたい、あるいはこんな風に楽しんでいただきたい、その一心で毎月コーヒーと向き合い、時には季節限定のブレンドなんかも作ったりしながら、これまでやってきました。良くも悪くも自己都合。やりたいように、やりたいことを。こんな幸せなことありません。桜の木々を眺めながら、日常と化した環境に、ふと感謝したくなりました。
夜桜を見ました。
それはそれは素晴らしい、日本の代名詞とも呼べる壮観な眺めでした。
きっと1年前なら、何度もカレンダーを開いては、ゴールデンウィークまであと何週間なのかを数えていたことでしょう。
もう、そんな必要は無さそうです。